振動パルスの切削理論

振動パルス切削の理論

1、まず、エイクレスとは

 超音波振動駆動装置を「エイクレス」と呼ぶ(図1-1、1-2)。このエイクレスに付属するホーン、エイクレスピースA、エイクレスピースB、およびエイクレスピースCがある。回転切削工具のアタッチメントとして使用する。
 医療機器に関するJIST1001~1004を満足してホーン先端を振動数f=60±KHz、振幅a=0.27~4чmの振動姿態で常に安定し、歯を超音波振動させて安全に治療できる装置である。

 タービンおよびエンジンによる回転切削工具と併用し、振幅を三段階に選択することができ、超音波縦振動するホーン先端を振動させやすい方向から軽い加圧力Pで当て患歯を超音波振動させながら切削速度V=2000m/min程度で切削する。これにより、切削速度を3~5倍に高速化したときの切れ味に、見かけ上相当させる性能を有する。

 連続した規則的なパルスの切削波形は振動駆動装置によって切削工具を振動数f、振幅aで切削方向に正弦波形で強制振動させ、切削速度vとの間にv<2πafの条件を与えることによって発生させる。電源トランス部、電源、電力増幅部、制御部、操作・表示部に所定の電圧を印可し、マイクロコンピューターによる自動追尾制御が行われる。

 歯科医は患部にエイクレスピースを接触させ、力を抜いて約20g~40gの力でエキスカベーターを使用する要領で切削すればよい。

【主なる使用】

・電源・電圧 :
 AC100V      ・電源入力 : 15VA
・発振周波数 : 60±2KHz(ASA-58.5~65.5KH2)発振切換 H.N.L
・ホーン先端振幅 : 0.27~4чm     ・ホーン入力 : 1.2±0.4Wa
・形状寸法 : 254×10×335mm  総重量 : 6.5kg
・アラーム回路 (アース探知、位相アラーム、周波数アラーム、振動子アース

【エイクレスの効果】
1、切削温度が上がらないために歯の組織が変質しない。
2、組織を壊さない、切削表面が滑沢である。
3、切削音が減少する。
4、切削効率が上がるため短時間で治療ができる。
5、工具の寿命が延びる。
6、ガリガリと削られるという不快な脳神経への刺激が軽減する。
7、診断が容易、痛みの発生源を知ることができる。
8、心臓疾患・慢性病患者など麻酔注射ができない患者や、歯の切削治療が痛いことを思うと、歯科医院に気軽に行けない患者たちに対して、特効的治療効果がある。
9、急性炎症、慢性の疼痛、歯根膜炎等、薬物麻酔は必要ない。
10、根管治療時根管口の入口を探すための道案内をすることが出来る。
11、エイクレスのパルスは頭痛、関節痛、開口障害に特殊な効果を発揮する。


2、振動切削(パルス切削)の機械的特徴(隈部淳一郎論文より)(図1-3)

 従来の器械加工ではワーク(工作物)を高速回転させ、これにバイト(切削工具)刃先を押しつけて、できるだけ速い切削速度で切削し、直流成分に正弦波の交流成分を重畳した切削力波形が工作物に作用するようにして精密切削している。この従来の切削法に対して、工具刃先を切削方向に振動数f、振幅aで正弦波振動させ、切削速度vをv<2πaf、すなわち工具の最大振動速度よりも低い切削速度として、工作物にパルス切削力波形を作用させて発熱現象なく精密切削するのが振動切削である。

 このパルス切削力波形を歯に作用させると、歯はガタガタと振れ動きそうに考えられがちであるが、例えば1/20,000~1/50,000秒というような周期の短いパルス切削力波形とすると、歯は静止して揺れ動かなくなって精密切削ができるようになる。

 この振動切削には、切削抵抗が軽減する効果(発熱なし)、加工精度が向上する効果(歯の切削面が研磨したときと同じようになる)、工具寿命が延びる効果、(ダイヤモンドバー・スチールバーおよびポイント等)従来の切削法に比べ約200倍の工具寿命となる。

3、振動切削(パルス切削)とは

 慣用切削(普通切削)での切削力は、Pmeanの直流成分にフーリエ級数で近似すれば太線で示す P sin ωt の正弦波形とはなるものの広範囲な振動数と振幅による細線で示す複雑な波形の交流成分を重畳させた波形となっている。振動切削では工具-工作物振動系の過渡現象領域における動特性に着目して、工具に切削方向の振動を与えて、工作物の切削速度vと工具の振幅a、振動数fの関係において、隈部臨界切削速度v<2πaf を満足する条件で切削することで、そのときに発生する切削力波形を規則的なパルス状波形とし、過渡現象を利用して図1-4aに示すようなパルス切削力波形によって切り屑を生成する機構である。すなわち、慣用切削では切り屑生成に必要な切削力波形 P sin ωt を自成させるために工作物に工具を強く押圧させるPmeanが必要で、この切り屑生成上無駄なエネルギーが切削時の著しい発熱現象に役割を演ずることになるが、振動切削ではこのPmeanの直流成分を伴わず、パルス状切削力波形のみによって切り屑を生成させることができるため、発熱を伴わず、切削抵抗を軽減できる効果が発揮される(図1-5、1-6)。切削の本質を捉えた原則的な切削法である。

 工具に、例えば20~60KHz高周波領域の振動数と微小振動を与えて前期条件を満足させて切削するのが超音波振動切削であり、このときの工作物の角固有振動数ωの関係に着目し、ω≫ωnの条件を満足させて切削する切削機構が振動切削による不感性振動切削機構である。これにより振動切削による主体的効果が生み出されることになる。工具により高い振動数の微小振動振幅を規則的に正確に与えて切削することでより工作物を安定化させ、工作物の動的変位をなくして静的変位のみとし、この変位を極力小さくすることにより超精密加工実現が可能になる。この主体的効果に加え振動切削によるパルス切削力波形を利用することで得られる諸効果をまとめると、切削抵抗減少効果、加工精度向上効果、室温切削温度効果、構成刃先非発生効果、加工ひずみ・ばり非発生効果、切り屑排出の円滑化効果、室温ℓT効果、耐摩耗性向上効果、工具寿命延長効果、幾何学的粗さ効果、切削油剤の円滑・冷却能促進効果、虹面効果、耐食性向上効果が挙げられる。

 図1-9は、歯の治療用ユニットで、回転する軸付工具(ポイント)に縦あるいはねじり振動を重畳させてものである。

1 目づまりを防止して、新鮮な切れ味を常に維持して、苦痛を与えない。
2 歯にパルス力を与えて、神経に不感性化効果を作用させて疼痛を軽減する。
3 歯の状態に応じて振幅を変化させ振動工具の相当結合度特性によって、最も適応した結合度にして一定した切れ味で疼痛を軽減する。

などの効果が得られる。

 図1-10のように歯-工具振動系をモデル化して考える。歯根膜のばねとダンバーで支えられた歯を力加工するとき、その歯を動変位させて太い実線で描いた神経を振れ動かさなければ疼痛を感じさせないことになる。

このときの力学的波形は、

1 P=Pmean + p sin ωt

     tc       2    ∞    1       tc
2 P=― ・ P + ― P  ∑    ―  sin n  ―  π cos n ωt
     T       π    n=1   n      T

の2つがある。

1 の方法は、いわゆる高速切削で、空気タービンによる30万回転以上の気体軸受で支えられた主軸(コントラ、ハンドピース)に取り付けたバー、ポイントによって行われている。切削力波形のω≫ωtの関係によって、歯は静的変位に変わり、神経を刺激しないことになり、疼痛をなくする効果をもたらす。しかし、ここで高速回転のため、著しい摩擦熱が発生するのが欠点で、冷却水で強制冷却する必要が生じている。この冷却水が口腔内に四散して患者を不快にさせている。

2 の方法は、図1-9によって実現する。低速回転でパルス状の力を発生させることができ、切れ味はよく、そのうえ摩擦熱も生ぜず、切削温度が上昇しないという特徴を発揮する。

 一定の回転数で回転するだけの高速回転ユニットと異なり、治療中にその歯の切削性に応じて、振幅を制御して適応治療できるなどこの利用効果は大きい。

 また、この図1-9の装置は金型の小径穴や隅などの仕上げにも使用できる。周速の上がらない小径研削工具の研削性を向上させるのも振動研削の特徴の一つである。

4)不感性振動切削

パルス切削力によって工作物はガタガタ揺れ動いて、超精密切削などは到底できないように考えがちであるが、工具―工作物振動系の周波数特性によってω≫ωnのとき、見かけ上、工作物を剛性化して、工作物の動きが静止する。そして、変位xを慣用高速切削のtc/T(1/3~1/10)に減少させることができる。この切削機構による振動切削を不感性振動切削と名づけた。

切削力により弾性振動しやすい歯の状態。
歯―工具振動系と疼痛伝達系を単純化したモデル図により疼痛を軽減する切削法として、パルス切削力波形によるこの不感性振動切削機構による切削法が最適である。しかしわずかな静的変位が残る。
疼痛伝達系の周波数特性に着眼した。

5)零位瞬間振動切削

 ω<ωnのときは、工作物は揺れ動くが、バイトの振動―周期中にバイトが工作物に接触して切削する。わすかなtc秒での工作物変位xは、0点を中心にして(―)側から(+)側に変位する瞬間で、その変位量はごくわずかな値を示す。この切削機構による振動切削を零位瞬間振動切削と名付けた。

切削熱もパルス状に作用するため、刃先や切り屑を加熱しない。切削温度は室温とほぼ同じ温度でバリもないし熱もないのでケガや火傷はしない。切削温度の上昇しない効果。これがパルス切削力波形による振動切削の最も顕著な特徴の一つである。
歯髄への影響がない。歯髄は40℃の温度で変質するという説と、それ以下の温度で影響されるといわれる説がある。

 6)重畳振動切削

 不感性振動切削によって軽減できた切削力をさらに軽減させる方法を探究した結果、重畳振動切削を究明、創案した。すなわち、連続するパルス切削力波形を間引きして断続パルス切削力波形によって切削する方法である。
 この波形は切削工具を低い振動数F、振幅Aで切削方向に振動させ、これに超音波域の高い振動数f、振幅aを重畳させて切削することによって得られる。
 すなわち、不感性振動切削機構と零位瞬間振動切削機構との重畳複合切削機構による切削方法である。

20KHz振動切削によって工具すくい面摩擦抵抗を軽減して背分力は0kg近くまで激減させたが、激減できなかった主分力をこの方法によって0kg近くまで激減させることに成功した。
表面粗さを幾何学的粗さに近づけ、表面加工ひずみを減少させ、切削加工法の工作物の変形を少なくし、バリの発生も少なくし、工具寿命を延ばす。さらに、精密切削を容易にし、能率化することになる。
酸素+水素=水 というように必ず和合があって効果を発揮する。
 不感性振動切削 + 零位時同振動切削 = 重畳振動切削
 医師         + スタッフ         = 心の交流・患者の喜び
 これがエイクレスです
※重畳とは
 幾重にも重ね合わせること
 この上なく満足なこと
 ご無事で何より・・・・と字引に訳されている。

7)精密振動ねじ立てについて

おねじとめねじの研究開発の効果
  おねじ―容易 めねじ―難しい
 おねじを製作するのは容易である。めねじは中ぐりなので難しい。しかもぴったり合うことが難しい。そのめねじの切削理論を利用し、根管拡大に発展させた。
トルクを軽減させ変形量を少なくする。

切削油剤の作用効果を増大させて、切削トルクを減少させタップの破損防止に効果を発揮する。
根管拡大のときにリーマーが折れない。そして彎曲したところへスーっと入っていく。そして洗絛効果を上げることができる。
こういうものをすべて網羅して、歯の切削時の疼痛を軽減する新しいエイクレスカッティング法を開発する。